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指標で見る明大(2/3)

指標で見る明大記事

指標で見る明治大学 Ⅱ/3
国際化で遅れ 取り戻す

 「この事例ではニカラグアで貧困にあえぐ農家に技術指導し、収穫物をホテルに納入できるネットワークを作りました。観光客に消費してもらう流れをつくれば、はな向け農家に安定収入が入り貧困を減らすことができます」 5月1日、明治大学の和泉キャンパス(こうな東京・杉並)。 学生はチームごとに与えられた教材をその場で読み込み、5分後に英語で説明する課題をこなしていた。

image001☆3大学共同授業

 1時間半の授業は、教員も学生も英語しか話せない。 昨年から明大が立教大学、国際大学(新潟県南魚沼市)と共同で実施している「国際協力人材育成プログラム」の一コマだ。この日は、途上国で観光業の成長を促すことにより貧困撲滅につなげる国連などの取り組みがテーマだった。

 授業を受けていたハワイ出身留学生、明治大学2年生のマエサト・サマンサ・アナミさんは「将来は観光ビジネスに携わりたい。 観光が貧困を減らすという視点が新鮮だった」と目を輝かす。

 留学生だけでなく、日本人学生の関心も集めている。 明治大学の福宮賢一学長は「立教大、国際大との)3大学供同プログラムへの学生の関心はとても高く1000人が説明会に参加した。 総合数理学部の40人も手を挙げた。 理系学生が来るとはびっくり」と明かす。

 私立大学はこぞって国際化を戦略の前面に出している。 今は横ばいの18歳人口は、2018年から減少が本格化するといわれ、大学間競争は激しくなる。 明治大学がグローバル人材を育成できる制度整備を急ぐのも、そうした危機感が大きい。

 明治大学の転機となったのは、文部科学省の国際化拠点整備事業「グローバ30」に採択された13校のうちの1校に2009年、選ばれたことだ)。 経営資源の配分が従来の一律型からメリハリ型に移行、「学内で学部、研究科の間の競争が強まった。 魅力のあるプログラムが自発的に立ち上がってきている」と、国際交流担当の勝悦子副学長は話す。

 現在、明大では五つの学位を英語授業で取得でき、学士では国際日本学部、修士では経営学や建築学などが対象だ。 それらを含めて、英語で実施する授業は全学で約410科目あるが、3年後に530科目に引き上げることを目指す。

 日本人学生がてん英語を使いこなせるらんふんとうへい環境を整えるだけでなく、途上国や新興国からの留学生受け入れに本格的にかじを切る狙いもある。 2008年新設の国際日本学蔀にも明治大学ならではのユニークさがある。 アニメや歌舞伎など日本のサブカルチャーや伝統芸能を体系的に学べる。 約1500人いる学生のうち、230人ほどが留学生。 本拠地の中野キャンパス(東京・中野)には様々な国籍の学生が集う。

国際大学を系列に、留学生増

 今年1月には、開設以来すべての授業を英語で実施してきた国際大学を系列法人にすることで合意した。 お互いのキャンバスで授業を提供しあい、教授も行き来する。国際大は産業界の肝煎りで、日本初の「大学院大学」として31年前に設立された。 国際関係論と国際経営学を柱とする少数精鋭型の修士コースのみだ。 国際大留学生には

新興国・途上国のエリート層も多く、「修士を取得した後に明治大学の博士課程に進む道筋もつけ、各国のリーダーを育てたい」(勝副学長)という。

☆ 早稲田の三分の一

 全学あげて、急ピッチで国際化戦略を加速している明治大学。 早くからグローバル化に取り組み留学生数も多い早稲田大学や慶応義塾大学に比べた後れは、明治大学自身が自覚している。

 例えば受け入れ留学生数は早大の三分の一ほど。 福宮学長は「自分の頭で考え自分で判断できる人材を育てたい。 グローバル社会の中では、しなやかにたくましく生き抜くことが問われるからだ」として独白の立ち位置を突き詰める構えだ。 新卒採用市場でも、明治大学卒業生は民間企業から泥臭さやタフさを評価される傾向が強いという。そうした明治大学らしい人材輩出を、グローバルでも増やすことができるかが次の課題となる。

「パンカラ」から「オシャレ」に

 東京・御茶ノ水の明治大学駿河台キャンパス。 高さ約120㍍の高層ビル「リバティタワー」がそびえる。 食堂や体育館を備え、収容人数約8000人以上は大学設備として屈指の規模だ。

 1998年当時、総合大学の伝統校で高層校舎は珍しく、大学関係者が全国から視察に訪れた。 今も「年間1万人の中学生や高校生が見学に来る」(野見山智道・経営企画部広報課副参事)。 福宮賢一学長自ら「以前の明治大学は施設にお金をかけるという発想がなかった」と語る。 リバティタワーが建つ前にあった「旧記念館」では、あまりの古さに「男子学生ですら他の建物にトイレを借りに行っていた」とOBは振り返る。 伝統と裏返しの古くて汚い設備。 良くも悪くも明治大学を象徴していた。

 リバティタワーは変革の出発点にすぎず、新ハード戦略は進行中だ。 今春オープンした62年ぶりの新キャンパス「中野キャンパス」(東京・中野)の14階建てビルに一歩足を踏み入れると、5階までが吹き抜けのガラス張りの空間に学生がにぎやかに行き交う。

 1階の学生食堂は赤や白で彩られ、流行の服に身を包んだ女子学生たちはおしゃべりに夢中。 一昔前に学生時代を過ごした世代には、看板がなければそこが明治大学とは思えない光景が広がっている。 おしゃれな大学へのイメージ戦略が学生を呼び込む原動力だ。

 リクルート進学総研の小林浩所長は「キャンパスを改善・新設したことで、イメージが変わった」と語る。代表的な卒業生についても「かつては高倉健さんらだったが、今は高校生にも身近な俳優の向井理さんや北川景子さん」という。 「保護者は明治大学を『バンカラ』と感じるだろうが、高校生には『親しみやすい』『おしゃれ』と映る」(小林所長)。 
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☆広報戦略にも力

 ハードだけではない。 ブランドカを高めるために、明治大学は2009年、「広報戦略本部」を設置した。 学部や研究機関など全部署に「広報連絡員」と呼ぶ60人超の担当者を配置。 教員の研究成果を対外発信できるように広報スキルを身につけるためのトレーニングを受講させた。

健全な財務、改革支える

 本部を立ちあげる前に年間10本程度だったプレスリリースは、今では7~8倍に増えた。今後、さらにインターネットでの情報発信を増やす方針で、野見山氏は「教員や卒業生の活動を紹介する新しいサイトを開設する」と話す。健全な財務体質がこうしたイメ―ジ改革を後押ししてきた。

image003 2004年~2010年度の帰属収支差額比率(企業の売上高に相当)は、5%以上を確保してきた。

 慢性的な赤字に苦しむ大学が少なくないなか、安定した経営を続ける。 日本私立学校振興・共済事業団がまとめた、大学を設置している学校法人全体の同比率をおおむね上回ってきた。

 備えもあった。 明治大学は「1985年、学生の定員を一気に数百人規模で増やした。 それに伴い入学金や授業料も増えたが、増収分は「いつか大きな出費があると思って手をつけずにためた」財務担当の武川宣夫常勤理事)。 貯金はおよそ20年続き、総額で100億円を超えた。 リパテイタワーの建設などに、その貯金を充当することができた。 コツコツ積み立てていたからこそハード刷新ができ、財務基盤も大きく悪化させずに済んだ。

☆収支に反動

 ただ、足元は厳しい。 2011年度以降は3年連綿で帰属収支差額はマイナス(2012年度、13年度は予算ベース)となる見通し。 教育・研究を充実させるため、教員を増やしたことなどが影響する。 危機感を強めた明治大学は1月、常勤理事らでつくる「財政検討委員会」を設置。 早期の黒字化に向けた施策を9月までにまとめる予定だ。 「収支を合わせられなければ100年後、200年後も残る大学になれない。 今が踏ん張りどころ」(武田常勤理事)。 今一番の注目大学である明治大学。 しかし、その積極策の反動も垣間見える。 大学間競争が激しさを増すなか、勢いを保つことができるか。 正念場を迎えている。

May 16 2013

日経産業新聞
 

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